『白いぼうし』色にかくされた意味──青・白・黄色でできた物語
▶ YouTubeで見る白いぼうし|色にかくされたひみつ『白いぼうし』を読み返すと、あることに気づきます。
この物語には、色がとても丁寧に書き込まれています。
空の色をしたタクシー。白い帽子。黄色い夏みかん。どれも、ただの飾りではないように思えます。
そもそも、シリーズ名が『車のいろは空のいろ』

まず、大事な事実があります。
『白いぼうし』は単独の作品ではなく、『車のいろは空のいろ』というシリーズの一篇です。1968年に出版された、あまんきみこさんの最初の本でもあります。
シリーズの題名そのものが、「車の色は空の色」なのです。
作者にとって、松井さんのタクシーが空の色であることは、シリーズ全体を貫く設定でした。ここまで大切にされている以上、色にも意味があると読んでよさそうです。
この記事の作者に関する事実は、Wikipedia「あまんきみこ」を参照しています。
青——だれのものでもない色

空の色とは、どんな色でしょうか。
広くて、やわらかくて、だれのものでもない色です。手でつかむことも、持ち帰ることもできません。
この物語に出てくる女の子もまた、つかまえられない存在でした。名前も告げず、行き先もはっきりさせず、いつのまにか消えてしまいます。
つかまえられない女の子が、つかまえられない色の車に乗る。 そう考えると、この組み合わせはとても自然です。
白——まだ決まっていない色

次に、題名にもなっている「白」です。
白は、何色にもなれる色です。まだ何も混ざっていない、決まっていない色とも言えます。
そして、この物語の中心にある「女の子の正体」も、最後まで決められていません。作者は、はっきり書かないという選び方をしました。
さらに言えば、白い帽子は、開けるまで中身が分からないものでもあります。チョウなのか、夏みかんなのか。開けてみるまで決まらない。
白は、答えを決めない色。 そう読むと、この題名が物語そのものを表していることが見えてきます。
黄色——あたたかさの色

そして、夏みかんの黄色。
初夏の光の色であり、あたたかさの色です。明るくて、はっきりしていて、見るとほっとする色でもあります。
青と白が「決めつけないこと」「つかまえないこと」を表しているとすれば、黄色は、そこに残るぬくもりを担っています。
三つの色が組み立てているもの

まとめると、こうなります。
| 色 | もの | 表しているもの |
|---|---|---|
| 青 | 空の色のタクシー | 広がり。つかまえないこと |
| 白 | 白い帽子 | 決めつけないこと |
| 黄色 | 夏みかん | あたたかさ |
この物語は、色でできています。 読み終えたあとに明るい気持ちが残るのは、この配色のためかもしれません。
あまんきみこさんという人

では、なぜあまんきみこさんは、こうした静かな書き方を選んだのでしょうか。作者の歩みを見ると、感じられることがあります。
あまんきみこさんは、1931年、旧満洲の撫順で生まれました。父親は南満洲鉄道の系列会社に勤めていました。
子どものころは体が弱く、病床で過ごすことが多かったといいます。そのとき家族から民話や寓話を聞かせてもらったことがきっかけで、「窓から空を眺めながら、空想でお話を作ることが好きでした」 と振り返っています。
空を眺めながら物語を作っていた子どもが、のちに『車のいろは空のいろ』を書くことになります。
戦争と、その後
女学校2年生のとき、大連で終戦を迎えます。父親は出征中、祖父はすでに亡くなっており、残された家族は女性ばかりでした。ソ連軍の占領下となった大連で、一家は2年近くを過ごします。
身の安全のために家族は頭髪を刈り上げ、あまんさん自身は男子の制服を借りて着ていたと伝えられています。
1947年に大阪へ引き揚げ、その後、母親が乳がんを患います。母は娘の将来を案じ、あまんさんは19歳で婚約しました。母が亡くなったのは、その翌日でした。
小さな出来事を、ていねいに見つめる
こうした歩みをたどると、あまんきみこさんの作品の静けさが、少し違って見えてきます。
大きな事件を大きく書くのではなく、小さな出来事をていねいに見つめる。 説明しすぎず、答えを決めず、それでも読んだあとにあたたかさが残る書き方。
松井さんもまた、大げさな人助けはしません。ただ静かに、少しだけ工夫します。
人を支えるのは、強い言葉ではなく、小さなやさしさかもしれない。 そうした感覚が、作品の底に流れているように思えます。
もちろん、これは一つの読み方にすぎません。けれど作者を知ってから読み返すと、あの空の色や、帽子の中の夏みかんが、少し違う手ざわりで届いてくるはずです。
考えてみたい問い
| 問い | ねらい |
|---|---|
| このお話に出てくる色を、いくつ見つけられるかな | 本文を読み返す楽しさ |
| どうして松井さんの車は、空の色なんだろう | 設定の意味を考える |
| 「白い」ぼうしなのは、なぜだと思う? | 題名の意味に気づく |
| 色を変えたら、お話の感じはどう変わるだろう | 表現の効果を考える |
作品情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | 白いぼうし(『車のいろは空のいろ』所収) |
| 作者 | あまんきみこ |
| 初刊 | 1968年 |
この記事は、YouTube「おわか文庫」の考察動画をもとに書いています。あわせて「女の子の正体はチョウ?」、「どうして夏みかんだったのか」もどうぞ。
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