『一つの花』「一つだけちょうだい」は、こわい言葉だった──ゆみ子が最初に覚えたことば
▶ YouTubeで見る一つの花|本当は怖い言葉?【教科書解説】『一つの花』には、くり返し出てくる言葉があります。
一つだけちょうだい。
小さな女の子のおねだりです。かわいらしく聞こえるかもしれません。
けれど本文には、この言葉について、こう書かれています。
これが、ゆみ子が最初に覚えた言葉だった。
ここに気づくと、この言葉の意味がまるで変わってきます。
「最初に覚えた言葉」が、それでいいのか

赤ちゃんが最初に覚える言葉といえば、何を思い浮かべるでしょうか。
「おかあさん」「まんま」「わんわん」——多くの子が、そうした言葉から話しはじめます。自分のいちばん近くにあるもの、いちばん好きなものの名前です。
ところがゆみ子が最初に覚えたのは、名前ではありませんでした。「一つだけちょうだい」という、おねだりの言葉だったのです。
なぜ、そうなったのでしょうか。
お母さんの口ぐせだった

答えは、お母さんの言葉にあります。
食べ物を分けるとき、お母さんはいつもこう言っていました。
じゃあね、一つだけよ。
ゆみ子は、その言葉を何度も何度も聞いて育ちました。だから覚えてしまったのです。
つまりこの言葉は、ゆみ子の家で、毎日のようにくり返されていた言葉だということになります。
なぜ、いつも「一つだけ」なのか

ではなぜ、お母さんは毎回「一つだけ」と言わなければならなかったのでしょうか。
物語の舞台は、戦争の時代です。
このころの日本では、食べ物がとても少なくなっていました。お米は足りず、食べ物は「配給」という形で決まった分だけ配られます。物語の中でも、口にできるのは、おいもや豆、かぼちゃといったものばかりでした。
お母さんは、けちだったわけではありません。もっと食べさせたくても、それができなかったのです。
「一つだけよ」は、たったそれだけしか分けられない暮らしから出てきた言葉でした。
ここが、この言葉のこわいところ

そのうえで、もう一度ゆみ子の言葉に戻ります。
食べ物を前にした子どもが言うのは、ふつうなら「もっとちょうだい」ではないでしょうか。もっと食べたい、というのが子どもの自然な気持ちのはずです。
けれどゆみ子は、最初から「一つだけ」と言います。
もらえるのは一つだけ。それが、ゆみ子にとっての当たり前になっている。
たくさんもらえる世界を、ゆみ子は知りません。だから「もっと」という言葉すら出てこないのです。
かわいらしいおねだりに聞こえた言葉が、実は足りないことに慣れてしまった子どもの姿を映している。ここが、この言葉のこわさだと思います。
お父さんが心配していたこと

物語の中で、お父さんはゆみ子の将来をしきりに気にかけます。
一つだけしか知らずに育っていくこの子は、これからどうなるのだろう。もらえることが当たり前ではない世界で、この子は生きていけるのだろうか。
くり返される小さな言葉が、そのまま親の不安につながっていきます。
「一つだけちょうだい」は、ただの口ぐせではありません。その時代の暮らしが、まるごと入っている一言なのです。
考えてみたい問い
| 問い | ねらい |
|---|---|
| ゆみ子が最初に覚えた言葉は何だった? | 本文を確かめて読む |
| ふつう、赤ちゃんが最初に覚える言葉って何だろう | 比べて気づく |
| どうしてお母さんは「一つだけよ」と言ったんだろう | 時代の背景を考える |
| ゆみ子は、どうして「もっとちょうだい」と言わないのかな | 言葉の奥を読む |
「戦争だったから」で終わらせず、「どうしてそう言うようになったのか」 まで一緒にたどると、物語がぐっと近づきます。
この記事は、YouTube「おわか文庫」の考察動画をもとに書いています。あわせて「お父さんはなぜ花を渡したのか」、「なぜ題名は『一つの花』なのか」、「書かれていない気持ちの読み方」もどうぞ。
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