『銀河鉄道の夜』宮沢賢治は、なぜブルカニロ博士を消したのか
▶ YouTubeで見る銀河鉄道の夜|消えた博士のナゾ『銀河鉄道の夜』には、私たちがよく読む第四次稿とは違う形の原稿が残されています。宮沢賢治は、この物語を何度も書き直していました。
第三次稿には、第四次稿では姿を消した、ブルカニロ博士という人物がいます。博士がいた物語と、いなくなった物語を比べると、作品の大切な変化が見えてきます。
第三次稿にいた、ブルカニロ博士

第三次稿では、カムパネルラが消え、ジョバンニが一人で泣いているところに、黒い大きな帽子をかぶり、大きな本を持った博士が現れます。
博士は、銀河鉄道の旅に関わる秘密を話し、ジョバンニに、これからどう生きていけばよいのかを考える手がかりを与えます。
さらに、遠くから自分の考えを伝える実験をしていたことや、旅の中でジョバンニが話した言葉を手帳に書き留めていたことも明かします。博士は、不思議な旅を説明する人でもありました。
博士が返した切符と、二枚の金貨

第三次稿で博士と別れたジョバンニは、ポケットの切符の中に、大きな金貨が二枚包まれていることに気がつきます。
ジョバンニは博士にお礼を言って、お母さんに牛乳を届けるために走り出します。第三次稿には、博士が旅の意味を説明し、ジョバンニを支える仕組みが残っています。
しかし、第四次稿には博士も、実験も、二枚の金貨も出てきません。
第四次稿で加わった、働くジョバンニ

第四次稿には、ジョバンニの学校や印刷所での仕事、家での暮らしがくわしく加えられています。
第三次稿では、切符の中から金貨が出てきました。一方、第四次稿のジョバンニは、自分で働いて小さな銀貨を受け取り、そのお金でパンと角砂糖を買います。
そして、届かなかったお母さんの牛乳を、自分で取りに行きます。ジョバンニは、誰かに助けてもらう少年ではなく、自分で暮らしを支える少年として、よりはっきり描かれるようになりました。
答えを教える人がいない結末

第四次稿のジョバンニは、銀河鉄道の旅から戻ったあと、カムパネルラがザネリを助けて戻らなかったことを知ります。
さらに、カムパネルラのお父さんから、自分のお父さんがもうすぐ帰ってくるかもしれないと聞きます。そして、お母さんに牛乳を届けるために走り出します。
ここには、博士のように答えを教えてくれる人はいません。「ほんとうの幸い」が何なのかも、ジョバンニは分からないままです。
博士を消した理由を考える

賢治自身が、博士を消した理由を説明した文章は見つかっていません。だから、理由を一つに決めることはできません。
ただ、第四次稿では、ジョバンニが自分の現実を生き、自分で行動する姿が強く描かれています。博士が答えを言う物語から、ジョバンニと読者が答えを探す物語へ変わった、と読むことはできそうです。
物語は少し分かりにくくなったかもしれません。その代わり、読む人も「ほんとうの幸い」を考え続けられるようになったのではないでしょうか。
考えてみたい問い
| 問い | 考える手がかり |
|---|---|
| ブルカニロ博士は、物語の中でどんな役目をしていたのだろう? | 旅の意味を説明する場面に注目する |
| 第四次稿のジョバンニは、第三次稿とどのように違って見える? | 金貨と、印刷所で得た銀貨を比べる |
| 賢治は、なぜ答えを教える博士を消したのだと思う? | 二つの原稿の結末を比べる |
← 読み深め