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『やまなし』クラムボンとは何か──意味を決めない言葉が伝えるもの

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『やまなし』は、こんな一文いちぶんから始はじまります。

小ちいさな谷川たにがわの底そこを写うつした二に枚まいの青あおい幻燈げんとうです。

そして、すぐにこの言葉ことばが出でてきます。

クラムボンはわらったよ。

クラムボンとは、いったい何なになのでしょうか。

宮沢みやざわ賢治けんじは、答こたえを教おしえてくれません。魚さかなでも、虫むしでも、神かみさまでもない。それでいて、この物語ものがたりの中なかでいちばん記憶きおくに残のこる言葉ことばになっています。


「わらう」から「死しんだ」への急きゅうな変化へんか

蟹かにの子こどもたちの会話かいわは、こう続つづきます。

クラムボンはわらったよ。 クラムボンはかぷかぷわらったよ。

「かぷかぷ」という響ひびきが、なんとも不思議ふしぎです。何なにを指さしているのかは分わからないのに、楽たのしそうな空気くうきだけが伝つたわってきます。

ところが、すぐあとに空気くうきが一変いっぺんします。

クラムボンは死しんだよ。 クラムボンは殺ころされたよ。

笑わらっていたはずのクラムボンが、急きゅうに死しんでしまう。 しかも「死しんだ」だけでなく「殺ころされた」とまで言いわれます。何なにが起おきたのか、本文ほんぶんははっきりと説明せつめいしません。


正体しょうたいをめぐる、いくつもの読よみ方かた

クラムボンの正体しょうたいについては、昔むかしからさまざまな説せつがあります。

  • 泡あわ(水みずの中なかに生うまれては消きえていく泡あわそのもの)
  • プランクトンなど、蟹かにの目めには見みえにくい小ちいさな生いきもの
  • 蟹かにの子こどもたちだけに聞きこえる、なにか別べつの生いきものの気配けはい
  • 意味いみを持もたない、音おとそのもの

どれも「これが正解せいかい」と言いい切きれる決きめ手てはありません。賢治けんじは、あえて正体しょうたいを隠かくしたまま物語ものがたりを進すすめたとも読よめます。

注目ちゅうもくしたいのは、「かぷかぷ」という音おとです。この物語ものがたりには、ほかにも「ぷくぷく」「ぽっぷりぽっぷり」など、水みずの中なかの気配けはいを表あらわす音おとがたくさん出でてきます。クラムボンも、その仲間なかまの一ひとつとして——意味いみというより、響ひびきとして——置おかれているのかもしれません。


意味いみを決きめないことで、自由じゆうになる

もし「クラムボンは○○です」と正体しょうたいが一行いちぎょうで説明せつめいされていたら、この物語ものがたりはずいぶん違ちがう手てざわりになっていたはずです。

正体しょうたいが分わからないからこそ、読よむ人ひとそれぞれが、自分じぶんなりの「クラムボン」を思おもい浮うかべることになります。「なにそれ?」と首くびをかしげるのも、「笑わらっている音おとみたいだ」と感かんじるのも、どちらも物語ものがたりの受うけ止とめ方かたとして間違まちがいではありません。

そして物語ものがたりの最後さいご、クラムボンはもう一度いちど笑わらいます。

死しんで、殺ころされて、それでも笑わらう。消きえたはずのものが、また現あらわれる。 この行いったり来きたりの中なかに、「やまなし」という物語ものがたり全体ぜんたいを貫つらぬく空気くうき――生いきて、消きえて、また生うまれてくるという水みずの中なかの時間じかん――が、すでに小ちいさく畳たたみ込こまれているように読よめます。


考かんがえてみたい問とい

問とい 引ひき出だせるもの
クラムボンって、何なにだと思おもう? 自由じゆうな想像そうぞう。正解せいかいはない
なんで「かぷかぷ」っていう音おとだと思おもう? 言葉ことばの響ひびきへの気きづき
笑わらっていたのに、なんで急きゅうに死しんじゃったんだろう? 物語ものがたりの急きゅうな転換てんかんへの気きづき
もし自分じぶんがクラムボンだったら、どんな気持きもちかな 物語ものがたりへの感情かんじょう移入いにゅう

「分わからないから面白おもしろい」という感覚かんかくを、そのまま持もち帰かえってもらえたら十分じゅうぶんです。


この記事きじは、YouTube「おわか文庫ぶんこ」の考察こうさつ動画どうがをもとに書かいています。あわせて「五月ごがつと十二月じゅうにがつ、光ひかりといのちの対比たいひ」、「命いのちはめぐる」もどうぞ。

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